執事または支配の原理

心理的な観点から見ると、人は「統一性」を持っておらず、自分自身の内部に多くの存在が含まれている。

見かけは怖いが、とんだいい人だ(1847年) 歌川国芳作


一万もの世界があり、それらすべての世界がひとりの人間の内面に存在しているが、人間がそれを意識することはない。
-- ダルカウィ(18、19世紀、スーフィーのマスター)
私は自分自身に矛盾するか?そう、私は自分自身と矛盾する。 私は大きい、私には群衆が含まれている。
-- ウォルト・ホイットマン
人間は、召使いが沢山いるのに主人も執事もいない家に喩えられる。まず、執事の到着にそなえて家の準備をすることができる。そして、その執事はまた、主人の到着にそなえて準備をすることができる。-- グルジェフ



「本当の私」または「内なる神」とも呼ばれる主人は、人間の内面に存在しないか眠っているかである。「本当の私」を目覚めさせるために、人間はそれが眠っていることを見ることによって、眠りとは何を意味するかを理解する必要がある。人はどうやって「高次の自己」を目覚めさせるかを学び、自らのさまざまな部分がどうやって自分の目的に抵抗するかを確認する必要がある。人間のこの理解は、それに基づいて行動する能力と一緒に、「執事」「内なる心」「見張り人」「家の主人」「君主」「教祖」または「主の代理」と呼ばれている。 「執事」は「複数の<私>」または使用人を制御するために心理的な道具で教育され、家の主人を招待する方法を教えられている。

頭の上に「カー」があるファラオ
(カイロ、エジプト博物館)
そして家の者が、その人の敵となるであろう。
-- 聖書、マタイによる福音書、10章36 話
そこで主は言われた、「主がその家を支配させる忠実な思慮深い執事は、
いったい誰であろう」。-- 聖書、ルカによる福音書、 12章42 話
彼は執事であり、彼の手は神の手である。-- ルーミー
身体は神の住まいである。 それ故にこう言われている。「汝自身を知れ」と。-- ルクソールの寺の格言
家の主人は、盗賊がいつごろ来るかわかっているなら、自分の家に押し入らせはしないであろう。-- 聖書、ルカによる福音書 12章39 話
世帯の真ん中でバランスを保ち、執着しないままでいなさい。
-- グル・ナナック
「低次の自己」は貴重なものや価値があるものを何でも盗むために、夜にあなたの家に潜入する泥棒のようなものである。電気を点けなさい。そうすると臆病者である泥棒は逃げ出す。どのように電気を点けるか? 想起の実践を通して点けるのである。-- スーフィーの知恵

見ること、聞くこと、感情、欲望と意見はすべて自分の内側に存在する泥棒である。 しかし、内なる心が目覚め、 警告し、それらの真ん中に超然と座っていると、それらの泥棒が家のメンバーに変化する。
-- 洪自誠、菜根譚

別の比喩では、人間は国や都市に例えられる。

人間の体は国のようなものであり、心は支配者のようなものである。-- 劉一明、易経の解説
人間は、その中心に主の代理がいる特別な場所があり、自分と自分の支配する役員が一緒に住んでいる都市のようなものである。-- イブン・アラビー
主が町を守らないのであれば、見張り人が目覚めていても虚しい。-- 聖書、 詩篇127章2 話
私達の身体は、都市である。私達の目、耳、鼻、舌は門である。外部に五つの門があり、内部の門は、意識の門である。心は地である。心の本質は心の領域に住んでいる王である。-- 慧能

王、皇帝やファラオのような支配者は、公民つまり「複数の<私>」を制御する執事を象徴する。

栄光の大王は思った。「王は安息日、満月の日に自分自身を浄化しており、神聖な日を守るために彼の宮殿の上階に上がっているときに、法輪という天の宝物が彼の元に現われれば、その王は無敵の王の中の王となる」。-- 大善見王経
王が山賊に悩まされている場合、王は彼らを攻撃する前に、敵営がどこにあるか調べる必要がある。同様に、人間は煩悩に悩まされているときに、最初にその起源を見つける必要がる。-- 仏陀
フルート、ハープを持つ5人の音楽家が空に現れ、歌いながら不思議な音楽を演奏した。「今夜、子供が生まれた。彼は良い法律を作り人々が正しく行動することを手伝う、偉大な王様になる」。-- 孔子の誕生
死すべき世界で汚されているよりも、猿王は天国に来るように運命づけられていた。-- 西遊記

星の模様があるベストを
着ているエジプトの戦士

第三の目の所にコブラと禿鷹の頭がある
ツタンカーメンのマスク

天国へ上昇することができる階段は 王のために準備されるだろう。
-- エジプトのピラミッド・テキスト
ファラオは、不滅の星の服を着ている。
-- エジプトのピラミッド・テキスト
使者、すなわち彼を起き上がらせる聖なる言葉が、王の所に来た。
-- エジプトのピラミッド・テキスト



心窩の上に「阿字」がある嵯峨天皇
13世紀(大阪、藤田美術館)

日本や中国の天皇は「天子」や「治天下大王」と呼ばれ、ローマ皇帝も同様に神である、と考えられていた。キリストも「神の子」と「ユダヤ人の王」と呼ばれていた。

左の画像では皇帝の心窩の上にサンスクリット語で「阿字」が書かれている。

「阿字」はすべての「法」の教えの源泉である。通俗的・秘教的なものも含め、すべての教えは、この種子 から生じる。-- 空海


背後の鷹に守られている、幼いホルスの像

エジプトのファラオは神聖なる王であり、ハヤブサの神ホルスの体現、エジプトの太陽神「ラー」の息子であると考えられた。

セッドの祭り(ファラオの継続的な支配を祝うために開催された古代エジプトの儀式)の最終日は第二戴冠式で最高潮に達し、天と地を統合した二つの土地のホルス王、「ラーの息子」としての王の地位を確認する。
-- エジプトのセッドの祭り

古代の王たちが「神の権利」を持ったということは、彼らが地上の権威の対象ではなかったことを意味する。 内の如く、外も然り。内的な意味は、執事が、主つまり「高次の自己」の副だということである。彼は人間(地)に「神聖なるプレゼンス」(天)を確立しようとする、「神聖なるプレゼンス」の代表者または精神的な子孫である。 支配者は神聖であるという考えは、意識的なスクールに由来する。その意識的なスクールは意識的な存在が支配する文明に成長した。プラトンはその意識的な存在を「哲学者の王様」と呼んだ。 息子によって代表される支配者が父なる神の意志に従うように、執事は下の世界で「高次の自己」の意志に従う。上の如く、下も然り。

私の思いどおりにではなく、あなたのお心のままになさってください。
-- 聖書、ルカによる福音書、 22章42 話

すべての秘教的(エソテリック)な伝統の経典では、教祖は執事を象徴する。秘教的な伝統の教祖と神話の英雄の物語は、超自然的な出来事と奇跡に満ちており、執事が奇跡的な「神聖なるプレゼンス」を成し遂げることを象徴する。

誰でも「自分の中で生まれることを待っているイエス」を持っている。-- ルーミー
自分の心が仏陀であることに気が付かない限り、多くの概念的な思考にだまされるだろう。
-- パドマサンバヴァ(蓮華生)
私がモーゼと言うと、あなたは私が過去の何かを示していると誤解する。モーゼの光は今ここのあなたの中にいる。-- ルーミー

執事は心から生まれてくる。「プレゼンス」の欠如した自分の人生には意味がないと分かり始めることは感情的な理解であり、執事の種である。心は、「内なる神」をどのように目覚めさせるかという知識により教育されていると「家の者」に精通し、執事が徐々に形成される。

レオナルド·ダ·ビンチによる、聖母子像
(セントピーターズバーグ、エルミタージュ美術館)

ホルスに授乳するイシス
(カイロ、エジプト博物館)




赤ちゃんは、心に生まれて育つ。
母親のような心は、心の子供を
出産し、授乳し、育てる。心の子は、内なる知恵を教えられている。-- アル・ジラニ
私の心は子宮の中にイエスがいる美しいマリアである。
-- ルーミー





執事は象徴なので、秘教的な伝統の教祖の誕生の物語は、文字通りに解釈されるべきではない。それら物語は執事のさまざまな特徴を示す。

メアリーは言った。「わが主よ、死すべきものが私に触れていないのに、私はどうやって妊娠したのでしょうか?」天使は答えた。「もしアッラーが命令するならば、ただ<Be>と言う! そして、そのようになるのだ。」-- コーラン
カビールの母親が司祭の前に平伏し、彼の足に触れたときに、彼は彼女が処女であり、息子を生むだろうと予測した。-- カビールの誕生
道教の伝統は、老子が賢者として、60歳で、白髪で、母親の胎内から生まれ出て、彼は120歳で死んだと主張している。-- 老子の誕生について
胎児が10ヶ月の内に完全になるということは、精神の完全性の象徴である。それは妊娠が10太陰月で完成するようなものである。-- 劉一明

卵の中の盤古神(中国)

仏陀は誕生後に7歩前進する
(ネパール、ルンビニ、中華寺)
仏陀は生まれるとすぐに、自分の足で地面にしっかりと立って、7歩前進した。
-- 仏陀の誕生について
あなたは卵の中にいるホルスである。神を見るために起き上がりなさい。 地平線、あなたがいたいと望む純粋な場所に向かって、腕を伸ばしなさい。 -- エジプトのテキスト、「日下出現の書」
卵は偉大なる道を完成する為に猿に変わった。
-- 西遊記

尊師は執事のもう一つの名前である。

夜航の中のホルスとエジプトの太陽神ラー(アニのパピルス)

この祝福された人間の姿は、頑丈な船のようなものである。教祖がその舵をとり、その帆に風を受けて、この船で輪廻の海を渡ることができるだろう。
-- ウダバギーター
 船はあなたの心である。それを守りなさい。
-- フィロカリア文中、グレート・マカリウス

心の中心に座っている自分の尊師を視覚化し、決して彼を忘れないでください。-- ミラレパ

船に寝ているイエス(ドイツ、ケルン、12世紀)

キリストがいない場合、船はこの世界の波と数多くの嵐に翻弄される。-- アウグスティヌス

海で粉砕された小舟の
天使の乗組員と同様 。
正面のマスト、
後ろの舵が失われ、
吹く風によって漂流し、
浮き沈む波によって翻弄される。
どのように海岸に到達するのだろうか?
単に石のようにそこに座ってはいけません。
もっと努力しなさい。
-- 寒山


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